Last Updated on 2023年10月23日 by mejisei-rehabilitation
この記事では、当院の理学療法士が指導しているセルフエクササイズをいくつか写真を使用して紹介したいと思います。
現在“リハビリに通っている方”、または“以前通っていたけど運動を忘れてしまった”という方は是非復習として使用していただけると幸いです。
|日本人が悩まされる症状 第一位「腰痛」1)
「2022年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)」によれば日本人の有訴率では男女ともに腰痛が第一位であり、2005年には腰痛のうち5~6割は腰部脊柱管狭窄症が含まれていると報告されています。2)
今回は多くの方が悩まされる腰部脊柱管狭窄症について、病態や有効な運動をご紹介いたします。
|腰部脊柱管狭窄症とは
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病態
脊柱管は背骨、椎間板、関節、靱帯などで囲まれた神経(神経根や馬尾)の通り道です。長い年月の間、 体を支えているとこれらの組織が変形し、脊柱管が狭くなることがあり、その中を走る神経の圧迫が生じます。
ジョンソン・エンド・ジョンソン 脊柱管狭窄症
現在、脊柱管狭窄症では「馬尾型」「神経根」「混合型」の3つに分けた分類が汎用されています。3)
- 馬尾型・混合型:
保存療法に反応が乏しく下肢の麻痺が完成してしまうと手術療法によっても病態の改善が期待できなくなります。
膀胱直腸障害や陰部障害の有無を確認することが重要です。
- 神経根型:
神経の障害部位に対応する感覚障害・運動障害を呈します。
保存療法への良好な反応が期待され、ブロック療法などによって著明な改善を示す症例も多くあります。
症状
・しばらく歩くと下肢のしびれや痛みが出て歩けなくなる(間欠性跛行※)
・下肢の痛みやしびれ感、麻痺(脱力)
・股間のほてり、残尿感、便秘
これらの症状は主に立つ・歩くことにより悪化し、さらに長距離を続けて歩くことができ なくなります。
※間欠性跛行(かんけつせいはこう)とは…
腰部脊柱管狭窄症に典型的な症状です。
しばらく歩いていると、脊椎に負荷がかかり、神経が圧迫され、足腰に痛みやしびれを感じて歩きにくくなったり、歩けなくなったりしますが、しゃがんで休憩したり、前かがみになったりすることにより、神経の圧迫が解放されるような姿勢で休憩すると、また歩けるようになります。
ジョンソン・エンド・ジョンソン 脊柱管狭窄症
|腰部脊柱管狭窄症が前かがみ姿勢で痛みが改善することが多いのはなぜ?
脊柱管を狭くする原因として、加齢による骨や椎間板、関節、靱帯の変形・肥大・肥厚などがあります。
腰椎は生理的な動きとして、腰を反ると脊柱管は狭くなり、前かがみになると広がります。腰を反ると神経の圧迫が強まり、臀部や下肢に痛みやしびれなどの神経症状が生じます。これとは反対に、腰を前屈すると脊柱管は拡大し、神経の圧迫が緩むため、臀部・下肢の症状は軽減されることが多いです。
脊柱管狭窄症ひろば
治療
- 薬物療法
圧迫された神経の血流を改善する薬や鎮痛薬,神経の過敏性を改善する薬等の処方やブロック注射を実施する
薬物療法を2-3ヶ月継続しても症状の改善が見られない場合には他の積極的治療法を考慮した方が良いとされる
- 装具療法
腰部脊柱管狭窄症の背景因子の一つに腰椎すべり症や変性側弯症がありこれらは姿勢により症状が増悪することがある。
コルセットなどは運動制限や姿勢保持の上で有用であり腰椎を安定させることで疼痛の緩和につながる。
- 理学療法
運動療法・温熱療法・電気療法を施行し、末梢の血流改善、組織の柔軟性増加が期待できるため結果として疼痛緩和や運動器官の支持性向上が得られることを目的としている。特に運動療法は各関節の位置を整え、筋力増強、可動域の増加により姿勢障害の予防や腰痛再発の防止に効果がある。
- 手術療法
経過が長く症状の改善が乏しい方,徐々に歩けなくなっている方,日常生活や仕事に支障をきたしている場合,麻痺、膀胱直腸障害が場合に適応になる。神経の圧迫を取り除く「除圧術」と,それに加えて腰の骨である椎骨を固定する「除圧固定術」に分けられる。
|エクササイズ
急激な痛みやしびれが起こった場合は、それ以上症状を悪化させないために安静をとります。
しかし長期間の安静は筋力や柔軟性が低下するため避けるべきです。長期に渡って症状がある場合や、急性期からある程度時間が経過し、痛みが落ち着いたら、筋肉が硬くならないように、血流の改善を促すため適度な運動を行います。
なるべく腰をそりすぎないような姿勢を保つために、腰を丸めるようなストレッチや体幹を強化する運動が良いです。
ここでは自宅で道具など使わずに簡単にできる運動をご紹介します。
また、腰椎の安定化に関与する腹横筋のエクササイズは下記のリンクより過去の記事をご覧ください。
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膝抱えのストレッチ
目的:お尻と腰の後ろの筋を伸ばします
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息を吐きながら、片足を抱え て膝を肩に近づけるようにし て、20秒間とめてくだい。反対の脚はしっかり伸ばしておきましょう
- 両膝を抱えます。視線はお腹を見ましょう。
○ポイント:お腹の力を抜いて、お尻や腰 が伸びるようにしましょう
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太ももの前面のストレッチ
目的:太ももの前の筋肉が硬いと、骨盤を前傾させ、腰を反る方向へ誘導してしまうため、ストレッチをします
- 横向きになり両脚を曲げます
- 上側の足(つま先でOK)を持ちます
- 持った脚を後ろに引きます。20秒伸ばします。
○ポイント:骨盤が動かないこと、腰が反らないように注意しましょう
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背中と肩甲骨を動かす運動
目的:腰の負担を減らすため背中などの動きを良くします
前後運動
- 胸を開き肩甲骨を中心に向かって寄せます
- 背中を丸めて肩甲骨を広げ、視線はお腹の方を見ましょう
○ポイント:胸を開く時は、腰を反らないように注意しましょう
並行運動
- 肩 の 高 さ が変わらないように しながら、左右交互に体重をかけて い く 。バ ラ ン ス が 崩 れずにできるところまで移動する。
○ポイント:お尻が浮かずにできる範囲で左右に動かしましょう。
- お尻あげ(hip lift)
目的:腰を反りすぎないよう、股関節を後ろに持っていくお尻の筋肉を鍛えます
- 仰向けになり両膝を曲げます
- お尻を持ち上げます
○ポイント:お尻を持ち上げる時には腰に痛みがでない程度にしましょう。
お尻に力が入っていることを確認しながら行うとより効果的です。
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全身運動を取り入れましょう
普段通りの生活を送ることで、 色々な身体の部分を使うことに加え、 全身運動としてウォーキングを 取り入れましょう。
【これが大事!】
・遠くを見るように前を向く
・腕を大きく振る
・やや大股の歩幅で歩く
・1日15分~20分程度
・少し汗ばむ程度
・無理なく適度な強度が重要
・毎日継続が重要!
|日常生活での注意点4)
- 物を持ち上げる場面(重量物の運搬や介護・看護職に多い)
【ポイント】 ・対象物を身体に近づける・重心を低くする ・身体のひねりを少なくする
理学療法ハンドブック シリーズ3 腰痛
- 長い時間椅子に座る場合(デスクワークや運転職に多い)
【ポイント】 ・前傾姿勢を避ける ・長時間同じ姿勢をとらない ・机や椅子の高さを調整する
正しい座り方はなく、リラックスすること 長時間同じ姿勢にならないことが重要です。
理学療法ハンドブック シリーズ3 腰痛
|まとめ
腰痛の原因が分かっている時は、痛くても無理に運動することはせず、安静 や医師の指示に従う必要があります。
しかし、その後に過度な安静や痛みへの不安を抱えてしまうと、腰痛慢性化 の原因になります。
このページにあるストレッチ・筋力トレーニングなど、できる範囲での運動を実施していきましょう。
それに加えて、いつも通りの日常生活やウォーキングなどの全身運動で腰痛予防をしていきましょう。
|参考文献
1)2022年国民生活基礎調査概況(厚生労働省)
2)中村正生ら:腰痛を主訴とした症例に対するアンケート調査.新薬と臨床,54:121-127,2005
3)清水克時 medical view 腰痛知る見る治す
4)理学療法ハンドブック シリーズ3 腰痛